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玉簪花

玉簪花

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「……秀忠様」

愛らしく清らかなーと常々思い、感嘆しているー声で、妻が己の諱を呼ばわるのに、秀忠はついついかつての癖で意識を向けがちな国政やら上方との関係やら、既に重い位職と共に息子に譲った筈の事柄に馳せていた意識を取り戻し、直ぐ傍に座す唯一人の存在へと集中させた。

「如何した。……何を左様に拗ねておる」

少し頬を膨らませるようにしながら、己を上目遣いに窺っている妻に問いかける。

無論妻が少々焼き餅を焼いているーといった表現が下世話ではあるものの、幾つになっても愛らしく無邪気な妻には相応しいと秀忠は思っているし、また彼女が見当外れにも秀忠の股肱の臣等や彼が亡き父より受け継いだ務めや家などに、対抗心を抱くらしいのを少々可笑しく感じてもいたーのは承知しているが知らぬフリをした。

自他共に認める堅物、謹厳居士である秀忠であっても、短くはない妻との婚姻生活で、体得した知識は多かったりする。

また心優しく素直でー基本単純な女ではあるが、旋毛を曲げてしまうと後々厄介であるし。また彼自身、妻が本気で泣いたり、怒ったりする姿を見るのは可能な限り避けたかった。

やはり笑顔が一番良い、というのが、これまた変わらぬ彼の思いであったりするのだ。

「拗ねてなど、おりませぬ。ただ、」

「ただ?」

「……随分と、難しいお顔をしておられました」

言葉とは裏腹に、だが非常に愛らしく紅唇を尖らせるのに我慢出来なくなって、秀忠は愛しい女の唇に軽く掠めるような口付けをした。

「……もう。すぐこうやって、誤魔化すのだもの」

「誤魔化してなどいないぞ」

以前よりずっと遠慮や憚りなど持たず、素直に感情を明かしてくれるようになった、と秀忠は改めて思う。

かつてならば、妻は、彼が国政のこと、あるいは下すべき敵、つまりは謀略やら計略に囚われている時は、何も言わなかったし、又彼や家の為と、不満や不安も全て呑み込んでいたのだろう。

妻の気遣いを有り難いとは感じていたものの、己との間に隔てを作っているような気がして寂しかった、というより不安と懸念を覚えたものだったが、今では妻もようやく、完全にー真の意味でーその身だけでなく心を許してくれるようになったのだ。

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